
音楽制作やDTMにおいてモニターヘッドホン選びは作品のクオリティを左右する重要な要素。中でもbeyerdynamicの「DT1990PRO」は、開放型スタジオモニターのフラッグシップとして長年プロの現場で愛されてきました。
2024年末には新型「DT1990PRO MKII」が登場し、TESLA.45ドライバーや低インピーダンス化などの進化が話題に。
本記事では旧型DT1990PROを中心にレビューしながら、新型MKIIとの違いや魅力を徹底比較。
DTM用途での実用性、音質傾向、装着感など、実体験をもとに深掘りしていきます。
beyerdynamicのヘッドホンとは?

ブランドの背景
- 1924年創業のドイツ企業。音響技術における精密さと耐久性に定評あり。
- スタジオ、放送局、ライブ現場、DTM用途など、プロフェッショナルの現場で広く使用されている。
- 「TESLAテクノロジー」など独自の技術開発にも積極的。
代表的なモデル
| モデル名 | タイプ | 特徴 |
|---|---|---|
| DT770 PRO | 密閉型 | 低音が豊かで遮音性◎。録音・ライブ用途に最適。 |
| DT880 PRO | セミオープン型 | バランス型。モニターとリスニングの中間的な音質。 |
| DT990 PRO | 開放型 | 音場が広く、リスニング用途に人気。高音がやや強め。 |
| DT1990 PRO | 開放型 | TESLA.2ドライバー搭載。高解像度でプロ仕様のモニター性能。 |
| DT700 PRO X | 密閉型 | 新世代モデル。低インピーダンスでポータブル機器でも駆動しやすい。 |
| DT900 PRO X | 開放型 | DT700 PRO Xの開放型版。自然な音場と広がりが魅力。 |
音質の特徴
- 解像度が非常に高く、音の輪郭が明瞭。
- モニター用途に適したフラットな音作りが多いが、モデルによってはリスニング寄りの味付けも。
- 高音域の伸びと空間表現力に優れ、定位感が非常に正確。
- 耐久性:金属パーツを多用し、長期使用に耐える設計。
- 交換性:イヤーパッドやケーブルが交換可能でメンテナンス性が高い。
- 装着感:ベロア素材のイヤーパッドが快適で、長時間使用にも向く。
DTM・音楽制作との相性
- 解像度・定位・空間表現が求められるDTM環境に最適。
- Babyface Pro FSやApollo xシリーズなどのオーディオインターフェースとの相性も良好。
- 特にDT1990PROは「音の基準」として使える信頼性を持つ。
個人的beyerdynamicの魅力
特筆すべきは、音の解像度と定位の正確さ。beyerdynamicのヘッドホンは、音源の細部まで描き出す高精度なモニター性能を備えており、DTMやミックス・マスタリングなど、音の判断が求められる場面で真価を発揮します。
beyerdynamicといえばTESLAドライバーですが、この独自技術がすごくて、微細なニュアンスを余すことなく伝えるための工夫が詰まっています。
ユーザーライクな堅牢なビルドクオリティと快適な装着感も魅力のひとつ。金属製のハウジングや着脱式ケーブル、ベロア素材のイヤーパッドなど、長時間の使用を前提とした設計が随所に見られます。
よく持ち歩くアマチュアやプロの現場で酷使されても壊れにくく、メンテナンス性にも優れているため、信頼性が非常に高いです。実際にまだ故障したことはありません。
さらにbeyerdynamicは用途に応じたラインナップの豊富さでも知られています。密閉型のDT770 PRO、開放型のDT990 PRO、セミオープン型のDT880 PROなど、録音・リスニング・モニターといった目的と価格に応じて最適なモデルが選べるのもユーザーにとって大きなメリットです。
beyerdynamicのヘッドホンは単なる道具ではなく、「音を正しく聴く」ための信頼できるパートナー。そしてドイツ製という持っているだけで所有欲を満たされるステータスあり。
音楽制作に真剣に向き合う人ほど、その魅力を深く実感できるブランドです。
新旧比較!装着感・使用感・スペックなど
| 項目 | DT1990PRO(旧型) | DT1990PRO MKII(新型) |
|---|---|---|
| タイプ | 開放型ダイナミックヘッドホン | 開放型ダイナミックヘッドホン |
| ドライバー | TESLA.2 テクノロジー | TESLA.45 テクノロジー(新開発) |
| インピーダンス | 250Ω | 30Ω(鳴らしやすくなった) |
| 周波数特性 | 5Hz ~ 40,000Hz | 5Hz ~ 40,000Hz |
| 感度(SPL) | 102 dB SPL / 1mW @ 500Hz | 100 dB SPL / 1mW @ 500Hz |
| 最大入力 | 200 mW | 200 mW |
| ケーブル | 着脱式(3ピンミニXLR)/ストレート&カール付属 | 着脱式(3ピンミニXLR)/ストレート&カール付属 |
| イヤーパッド | ベロア素材/分析用・リスニング用の2種類 | ベロア素材/プロデューシング・マスタリング用の2種類 |
| 重量 | 約370g(ケーブル含まず) | 約370g(ケーブル含まず) |
| 用途 | モニタリング、ミックス、DTM | モニタリング、ミックス、DTM、リスニング |

装着感
重量はどちらも約370gでその見た目通り最初に装着したときは重さを感じるかもしれません。
装着感は違いがあって、旧型では側圧がしっかりしていますが、新型のMKIIでは側圧がちょっとだけ緩めになっていて、より軽やかな装着感に。旧型の「ガッチリ感」が好きな人もいると思いますが、快適さ重視ならMKIIのほうが好みって人も多いかも。
ただ、その分、旧型は頭にフィットしてくれるのでズレたり浮いたりすることはほぼなし。密着感があるぶん、音の定位も安定していてモニター用途にはむしろありがたいポイントです。
イヤーパッドはbeyerdynamicおなじみのベロア素材。肌触りがやわらかくて、長時間つけてても蒸れにくいのが嬉しいところ。DTMやミックス作業で何時間使っても、耳が痛くなりにくいのは助かります。
インピーダンス
スペック上では、旧型DT1990PROが250Ω、新型MKIIが30Ωと大きく異なります。数値だけ見ると「鳴らしやすさ」に差がありそうですが、実際に聴いてみると音の印象や質感に極端な違いは感じにくいのが正直なところです。
もちろん、駆動力の低い機器(スマホやポータブルDAPなど)ではMKIIのほうが扱いやすいですが、DTM環境やオーディオインターフェースを通して使う場合はどちらも十分に駆動でき、音の傾向も大きく変わりません。
TESLAドライバーの特性がしっかり出ているため、インピーダンスの違いが音質に直結するというよりは、機器との相性や運用のしやすさに関わる要素として捉えるのが自然ですね。
イヤーパッドの違い
DT1990PROシリーズは、イヤーパッドの交換によって音の傾向を変えられるのが大きな特徴です。旧型・新型ともに2種類のイヤーパッドが付属していますが、名称・素材・音響特性に微妙な違いがあります。
旧型では「分析用(Analytical)」と「リスニング用(Balanced)」の2種類が付属。分析用はやや硬めで密着感が強く、音の輪郭がシャープに出る傾向があります。
リスニング用は厚みがあり、低域の量感が増して聴き心地が柔らかくなります。どちらもベロア素材で、肌触りは快適です。
一方、新型MKIIでは「プロデューシング用」と「マスタリング用」という名称に変更され、音響設計も微調整されています。
プロデューシング用は旧型の分析用に近く、定位と解像度重視。マスタリング用は低域の沈み込みと空間の広がりを意識したチューニングで、より自然な音場が得られます。
素材は同じくベロアですが、厚みや密度がわずかに異なるため、装着感も軽快になっています。
比較してみて、旧型は「モニター用途に特化した切り替え」、新型は「制作工程に合わせた選択肢」という位置づけかなと感じました。どちらもイヤーパッド交換による音の変化が大きく、好みに合わせて調整できる点は共通しています。

気になる音質は
DT1990PRO(旧型)の印象
高音域
- 高音はシャープで、やや硬質な印象。スネアのアタックやハイハットの粒立ちが明瞭で定位も正確ですが、ボーカルの歯擦音は刺さり気味でしばらく聞いていると耳が痛くなってきます。
中音域
- 中域はフラットよりややへこみ気味。開放型の特性もあって、ボーカルはやや遠めに感じることも。これは「音全体を俯瞰する」モニター用途としてはむしろメリットになります。
低音域
- 開放型ながら、低域の量感はしっかりあり、制動感も良好。キックやベースの輪郭がぼやけず、タイトに鳴ってくれるので、打ち込み系やEDMでも破綻しません。低音が出すぎないぶん、ミックスのバランスを整える作業にも向いています。
音場・定位
- 音場は横方向に広く、空間の広がりが自然。定位は非常に正確で、パンニングされた音の位置が手に取るように分かります。リバーブの残響や奥行きも把握しやすく、空間系エフェクトの調整にも強い印象です。
旧型DT1990PROの音は、ひとことで言えば「情報量が多く、輪郭がくっきりしている」。
TESLA.2ドライバーによる高解像度なサウンドは、音の細部までしっかりと描き出してくれるためミックスやマスタリングなど音の判断が求められる場面で非常に頼りになりますが、ボーカルや金物の刺さりには注意。
DT1990PRO MKII(新型)の印象
高音域
- 高音は旧型に比べて滑らかで、刺さりにくくなっています。スネアやハイハットの粒立ちはしっかり残しつつ、耳に痛くなるようなピーク感が抑えられており、長時間の作業でも疲れにくい印象です。TESLA.45ドライバーの特性か、音の輪郭は保ちつつも、硬質さがほどよく緩和されています。
中音域
- 中域は旧型よりも自然で、ボーカルの距離感もやや近めに改善されています。開放型らしい空気感はそのままに、音像の中心がしっかりと立ち上がるため、ボーカルやギターの定位がより明瞭。ミックス時のバランス確認にも使いやすくなっています。
低音域
- 低域は旧型よりも沈み込みが深く、制動感もさらに向上。キックやベースの質感がよりリアルに感じられ、音楽全体の土台をしっかり支えてくれる印象です。量感は過剰ではなく、タイトさを保ちつつも、リスニング用途でも心地よく響く低音に仕上がっています。
音場・定位
- 音場は旧型同様に広く、さらに立体的な広がりを感じます。定位は非常に正確で、パンニングされた音の位置が自然に浮かび上がるような感覚。空間系エフェクトの残響や奥行きの把握もよりスムーズで、ミックス作業の精度を高めてくれます。
DT1990PRO MKIIの音は、ひとことで言えば「滑らかで自然、かつ情報量が豊富」。
TESLA.45ドライバーによる進化は旧型の解像度の高さを継承しつつ、耳当たりの良さと空間表現力をさらに高めたチューニングに仕上がっています。
モニター用途だけでなく、リスニングにも対応できる柔軟性があり、長時間の制作作業にもストレスなく使えるのが大きな魅力です。
まとめ:MKIIは「進化を感じられる上位互換」
DT1990PRO MKIIは、旧型の優れたモニター性能をしっかり継承しつつ、音質・装着感・運用性のすべてにおいて着実な進化を遂げたモデルです。
TESLA.45ドライバーによる滑らかな高音、沈み込みの深い低音、そしてより自然な音場表現は、旧型の「情報量重視」のサウンドをさらに洗練させた印象を与えます。
また、側圧の緩和やイヤーパッドの改良によって、長時間の使用でも疲れにくく、制作環境における快適性が大きく向上。インピーダンスの低下により、ポータブル機器でも扱いやすくなった点も、現代の制作スタイルにマッチしています。
MKIIは単なる後継機ではなく、旧型の魅力を土台にしながら、より多くのユーザーにとって使いやすく、耳に優しい「上位互換モデル」として完成度の高い仕上がりになっています。
